現在癌治療は外科切除、放射線照射、薬剤治療の3つが中心となり、これらに新しい治療法も加えられた集学的治療がいろいろと検討されてきている。しかし1963年日本癌治療学会が創設された当時は、免疫機能を加えた4本柱として提唱されており、創設者の一人であった中山恒明先生は学会創立の記念講演の中で免疫機能の重要性を話しておられた。それがいつの間にか免疫機能が4本柱から消えてしまった。これには種々の免疫療法の出現に対して、科学的実証がないとして免疫の関与が否定されてきた経緯がある。
しかしながら実際の癌の臨床の中では免疫力の関与を認めざるを得ない事象は多くあり、中山恒明先生も癌の切除術にあたっては患者さん自身の免疫力が大きな働きをしていると言っておられた。
大きな火事は消防車が消せば良いが、焼け跡に隠れた小さな残り火を自分自身の免疫細胞が処理しているからこそ完治治療が成り立つのだと考えねばならないのだ。
近年種々の治療の実施に際して免疫という考えが薄らいでいるように思われる。特に薬物療法などではその副作用として白血球減少が問題にされ、投与期間中には何回か血液検査が行われる。これは白血球の中の顆粒球減少により肺炎などの細菌感染の発症を防ぐための対応ではあるが、癌細胞の排除を担当しているリンパ球の減少についてはほとんど注目されていない。
激しい薬物療法を乗り切った時にはリンパ球はごく少数になってしまっており、もはや自身の免疫力ではわずかな癌細胞も排除できない状態になっており、結果として急速な癌細胞の再増殖を防ぐことができないということとなっている。
減少してしまったリンパ球を増やす手段がない現状では、自身の免疫力を大切に維持しながら癌に対する治療を行ってゆくことの重要性を忘れてはならない。
薬の効能ばかりを考え、患者さんの状態を忘れてしまっている医者に対する警告である。
やはり癌治療の4大要素に免疫機能も考慮に入れておかなければならない。