・「専門医」という言葉の誤解
日本の現在の専門医制度では、医師は19の基本領域診療科の内の何れかの「専門医」を取得する、とされています。
ここでいう「専門医」とは、ある特定の高度技術を持つ“超専門医”のことではありません。その医師が担当している診療科の表示であり、その領域の病気について標準的な医療を行える能力を有していることを意味しています。
多くの病気がありますが、内科、小児科、外科、整形外科、産婦人科などのすべての病気はこれらの基本領域診療科に含まれます。患者さんは、この中から自分の症状に合った科を選んで受診する仕組みになっているのです。
・患者さんが迷いやすい現実
しかし実際には、
「軽い症状だけど、どの科に行けばいいのか分からない」
「ちょっとした処置でも専門医を探さないといけないのか」
といった戸惑いが少なくありません。
日常的な病気や予防処置などは何科の医師でも対応できる内容ですが、患者さんは「必ず専門医でなければならない」と思い込みがちです。その結果、どの診療所へ行ったら良いのか迷ってしまうのです。
・総合診療専門医の必要性
こうした種々診療科専門医の隙間を埋める存在が総合診療専門医です。幅広い領域の診療を行い、患者さんにとっての最初の相談窓口になります。さらに、難しい病状の場合には「どの専門医につなぐのが適切か」を判断し、患者さんを導きます。
総合診療専門医は、
日常的な健康問題に幅広く対応できる。
専門医との橋渡し役となる。
地域医療に欠かせない役割を担っている。
・総合診療専門医を育てるのは誰か
このような総合診療専門医は大学病院や大病院の中だけでは育ちにくく、地域で幅広い患者さんを診療し続けることで培われます。特に、永年地域で開業医として住民の健康を守ってきた医師こそが、本当の意味での総合診療専門医といえるのです。
そして、こうした開業医の集団である地域医師会は、総合診療専門医の育成や認定に積極的に取り組むべきだと考えます。医師会が自らの**プロフェッショナル・オートノミー(専門職としての自律性・自己規律)**を自覚し、地域医療の質を自らの責任で守り高めていくことが、今こそ求められているのです。